南アルプスの中央に位置する塩見岳(東峰3,052m・日本百名山)と、その奥に静かにそびえる蝙蝠岳(2,865m・日本百高山)。この記事では、長野県側の鳥倉登山口を起点に、三伏峠・塩見岳を越えて蝙蝠岳までを往復(ピストン)する日帰りルートを紹介します。塩見岳から蝙蝠岳へ続く稜線はハイマツの少ない大展望の道で、南アルプス南部でも屈指の静けさと開放感を味わえます。
距離は約32.5km、累積標高は約3,060m。標準コースタイムは往復で19時間を超え、通常は塩見小屋泊まりで歩かれるロングルートです。これを日帰りで歩き切るには早朝どころか深夜のスタートが欠かせません。そこで私は登山口の鳥倉登山口駐車場で前泊(車中泊)し、深夜2時過ぎに歩き始めました。
この記事では、登山・車中泊歴10年以上のソロ登山者の視点で、塩見岳・蝙蝠岳のコース・前泊にちょうどいい車中泊スポット・使った装備・下山後の温泉まで、実際に歩いた記録をもとにまとめます。

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塩見岳・蝙蝠岳(鳥倉ルート)の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な山と標高 | 塩見岳(東峰)3,052m(日本百名山)/蝙蝠岳 2,865m(日本百高山)/北俣岳 2,920m・本谷山 2,658m・三伏山 2,615m |
| 所在地 | 長野県下伊那郡大鹿村(登山口)/長野県・静岡県境の南アルプス |
| 山のリスト | 日本百名山(塩見岳)/日本百高山(蝙蝠岳) |
| 難易度 | 上級(往復19時間超のロング・塩見岳直下の鎖場・北俣岳〜蝙蝠岳の細尾根/日帰りは健脚向け) |
| コースタイム目安 | (鳥倉ピストン)YAMAP標準タイム 約19時間5分・コース定数75(きつい) ※コースタイム表を参照 |
| 距離/累積標高 | 約32.5km / 累積標高(上り)約3,060m |
| ベストシーズン | 7月〜9月(残雪期を避けた盛夏〜初秋) |
塩見岳・蝙蝠岳のキャラクター
このルートの魅力は、「百名山・塩見岳」と「静かな百高山・蝙蝠岳」を一度に踏めること。三伏峠から塩見小屋までは展望の少ない樹林帯が続きますが、塩見小屋から先は一転して大展望の岩稜歩きになります。とりわけ塩見岳から北俣岳を経て蝙蝠岳へ続く稜線は、ハイマツの少ない開放的な尾根で、歩く人も少なく、南アルプスらしい奥深さと静けさが際立ちます。塩見岳までは登山者でにぎわう一方、蝙蝠尾根に入ると人の姿はぐっと減り、360度の展望を独り占めできる贅沢なピストンです。
鳥倉登山口へのアクセスと駐車場
起点となる鳥倉登山口へは、中央自動車道・松川ICから大鹿村方面へ向かい、小渋川沿いの県道・林道を経由してアクセスします。登山口へ続く林道はすれ違いの難しい細い山道が一部あるため、対向車に注意しながら慎重に走りましょう。
車は鳥倉登山口駐車場(無料)に停めます。駐車場のゲートから林道を30分ほど歩くと、登山道の入口である鳥倉登山口に到着します。
何時までに着くか(駐車場の混雑)
鳥倉登山口駐車場は台数に限りがあり、夏山シーズンの週末は早朝で満車になることもあります。今回のように深夜スタートで日帰りロングに臨むなら、前夜のうちに到着して車中泊しておくのが確実です。
塩見岳・蝙蝠岳の前泊におすすめの車中泊スポット
このコースは深夜スタートが前提のロングルート。前夜に登山口周辺で車中泊しておくと、体力にも時間にも余裕を持って歩けます。私が実際に使った前泊スポットと、周辺の候補を紹介します。
【1】鳥倉登山口駐車場(登山口)
鳥倉ルートの登山口そのもの。歩き出しの林道を含めても数分の距離で、深夜発・早発には理想的な立地です。標高が高く夏でも涼しい一方、細い林道の先にあり設備は限られます。私が今回前泊したのはこの駐車場。

【2】道の駅 歌舞伎の里大鹿(登山口駐車場まで車で約40分)
大鹿村の中心部にある道の駅。夜間の交通がほぼなく静かで、南アルプス(塩見岳・赤石岳方面)の前泊基地として使いやすい立地です。トイレなど設備も整い、登山口の駐車場が心配なときの前泊候補になります。詳しい車中泊のしやすさは別記事にまとめています。

南アルプスのほかの登山口に近い前泊スポットも、まとめて別記事で紹介しています。塩見岳以外の南アルプスの山を計画するときの参考にしてください。

総合的には、登山口に直結する鳥倉登山口駐車場が第一候補。満車が心配なときや、下山後にゆっくり過ごしたいときは、設備の整った道の駅 歌舞伎の里大鹿を組み合わせると安心です。
実際に歩いた塩見岳・蝙蝠岳(鳥倉ピストン)の体験記
ここからは、2026年7月下旬に実際に歩いた塩見岳・蝙蝠岳ピストンの記録を、コースの様子とあわせて時系列で紹介します。
ルート全体図

鳥倉登山口から三伏峠・本谷山を越えて塩見岳へ。さらに北俣岳から蝙蝠尾根に入って蝙蝠岳を往復し、同じ道を戻るピストン(往復)ルートです。全体の距離は約32.5km、累積標高は約3,060mにおよびます。
塩見岳・蝙蝠岳のコースタイム(標準・実測)
標準コースタイムと、当日の実測タイムを区間ごとに並べました。標準はYAMAPの区間標準タイム、実測は休憩を含んだ実際の通過時刻をもとにしています。
| 区間 | 標準コースタイム(累計) | 実測コースタイム(累計) |
|---|---|---|
| 鳥倉登山口駐車場(出発 2時10分) | ― | ― |
| → 三伏峠小屋 | 3時間55分(累計 3:55) | 2時間20分(累計 2:20) |
| → 本谷山 | 1時間05分(累計 5:00) | 50分(累計 3:10) |
| → 塩見小屋 | 1時間40分(累計 6:40) | 1時間15分(累計 4:25) |
| → 塩見岳 | 1時間00分(累計 7:40) | 55分(累計 5:20) |
| → 蝙蝠岳(折り返し) | 2時間20分(累計 10:00) | 1時間40分(累計 7:00) |
| → 塩見岳(復路) | 2時間35分(累計 12:35) | 2時間00分(累計 9:00) |
| → 鳥倉登山口駐車場(下山 16時3分ごろ) | 6時間30分(累計 19:05) | 4時間53分(累計 13:53) |
標準コースタイムの合計は約19時間(YAMAP標準タイム)。通常は塩見小屋で1泊する行程です。今回は深夜スタートで各ピークの滞在を短くし、行動時間13時間53分で日帰りしました。日帰りする場合は相応の体力と、途中で引き返す判断基準を持っておくことをおすすめします。
出発前夜〜当日朝
前夜は登山口の鳥倉登山口駐車場で車中泊。当日は1時30分に起床し、2時10分にスタートしました。駐車場のゲートから林道を30分ほど歩いて登山口へ。ここからはヘッドランプを頼りに、樹林帯の急登を登っていきます。
樹林帯の急登から三伏峠・三伏山へ
登山口から三伏峠までの登山道には、「1/10」〜「9/10」の通し番号が振られていて、現在地の目安になります。急登続きですが、番号を数えながら登ると気持ちの区切りがつきやすいのが助かりました。4時30分、三伏峠小屋に到着。小屋から10分ほど進むと三伏山の山頂ですが、日は出ているもののあいにくのガスで展望はなしでした。


本谷山を越えて塩見小屋へ
三伏山からは再び樹林帯の道。5時20分、本谷山に到着しましたが、山頂は木々に覆われ、ここも展望はなくガスが張っていました。本谷山から塩見小屋までも樹林帯が続きますが、塩見小屋まで来ると、一気に展望が広がります。ここまでの我慢が報われる瞬間です。



鎖場を越えて塩見岳へ
塩見小屋から塩見岳の山頂直下は、鎖場の多い岩場。三点支持で慎重に登っていきます。7時30分、塩見岳(東峰)に到着。この時点ではまだガスが多く、展望は限定的でした。帰りにガスが晴れることを祈って、先の蝙蝠岳へと進みます。


塩見岳から蝙蝠岳へ 大展望の稜線
塩見岳から北俣岳までは細い尾根歩きが続きます。北俣岳で蝙蝠尾根に入ると、そこからは緩やかなアップダウンの気持ちいい稜線歩き。ハイマツも少なく、圧巻の展望が広がります。振り返れば、先ほどまでガスに覆われていた塩見岳も少しずつ晴れてきました。



蝙蝠岳山頂 360度の大展望
9時10分、蝙蝠岳(2,865m・日本百高山)に到着。山頂は360度の大展望で、赤石岳をはじめとする南アルプス南部の山々を見渡せました。塩見岳から往復してくる登山者は少なく、静かな山頂で展望を独り占めできるのが、この蝙蝠尾根の醍醐味です。



ガスが晴れた復路
蝙蝠岳から塩見岳へ戻る途中、悪沢岳や仙丈ヶ岳方面のガスも晴れて、素晴らしい展望が広がりました。そして塩見岳に戻ってきたタイミングでも、今度は360度の大展望。往路のガスが嘘のように、南アルプスの主脈を一望できました。あとは同じ道を、三伏山・三伏峠を経て鳥倉登山口へと下っていきます。




塩見岳・蝙蝠岳ピストンで気をつけたいポイント
このロングピストンを安全に歩き切るために、実際に歩いて感じた注意点をまとめます。
- 塩見岳山頂直下の鎖場・岩場。塩見小屋から山頂までは鎖場の多い急な岩場です。浮き石や落石に注意し、三点支持で慎重に通過しましょう。
- 北俣岳〜蝙蝠岳の細尾根。塩見岳から北俣岳までは切れ落ちた細い尾根。強風時やガスで視界が悪いときは特に慎重に。蝙蝠尾根は歩く人が少なく、道迷いにも注意です。
- とにかくロングで累積標高が大きい。往復約32.5km・標準19時間超・累積標高3,000m超の行動。日帰りは健脚向けで、体力配分を意識し、深夜発・早着を徹底しましょう。
- エスケープ=塩見小屋・三伏峠小屋。途中には塩見小屋・三伏峠小屋があります。天候悪化や体調不良のときは、蝙蝠岳を諦めて塩見岳で引き返す、塩見小屋で状況を見るなど、早めの判断を。
- 水場は限られる。稜線上に安定した水場は少なく、三伏峠周辺が基本。行動時間が長いので、水は多めに用意しましょう。筆者は4リットルの水とアクエリアス500mlを2本持参。前半はガスが張っていてそこまで暑さが気にならなかったこともあり、水1.5リットルほど残して下山完了となりました。
- 単独行はとくに慎重に。登山届の提出、予備食料、モバイルバッテリー、ココヘリ等の備えを。蝙蝠尾根は電波も入りにくく、人も少ないため、無理は禁物です。
塩見岳・蝙蝠岳ピストンで実際に使った装備
日帰りとはいえ標準19時間超・累積標高3,000m超のロングルート。ここでは、この山で実際に役立った装備を紹介します(レインウェアなど、日帰り登山の標準セットは省略します)。
必須装備
ヘッドランプ(予備電池も)。深夜2時台のスタートで、日の出まで数時間は完全な夜間行動になります。明るく信頼性の高いヘッドランプと予備電池は必携です。水と行動食も多めに。行動時間が非常に長く、稜線上に安定した水場が少ないため、余裕を持った量を用意しましょう。3,000m級の稜線の風・ガスに備えた防寒着と、日焼け対策も欠かせません。
あると安心だった装備
トレッキングポール(ストック)。三伏峠までの長い急登と、下りの膝の負担を軽くできます。中年のソロ登山ではとくにおすすめです。

ヘルメット。塩見岳直下の鎖場・岩場では、落石や転倒に備えてヘルメットがあると安心です。
塩見岳・蝙蝠岳登山の前後に立ち寄れる日帰り温泉
大鹿村周辺には、登山の前後に立ち寄れる日帰り温泉がなく、飯島村や中川村あたりまで足を延ばす必要があります。私が実際に利用した2施設を紹介します(営業時間・日帰り入浴の可否は変わることがあるため、事前の確認をおすすめします)。
お宿 陣屋(前泊時に立ち寄り)
前泊の前に立ち寄ったのが「お宿 陣屋」。日帰り入浴が可能かどうか事前確認が必要な施設ですが、幸い1時間ほどなら利用できるとのことで、前泊時に利用しました。平日17時ごろの訪問で貸し切り状態。清掃が行き届いていて非常に快適です。シャワーは湯量・湯温の調整がしやすく、自動で止まる仕様ながらお湯が出ている時間が長いのであまり気になりません。露天風呂はお湯が張られておらず利用不可でしたが、内湯は40度のメインの湯船と、ややぬるめの小さめの湯船の2つが楽しめます。料金は700円でした。

望岳荘(下山後に立ち寄り)
下山後に立ち寄ったのが「望岳荘」。コンパクトな人工温泉のお風呂です。洗い場には簡易的な仕切りがあり、シャワーは湯量の調整がしやすく、自動で止まらない仕様で使いやすい印象。露天風呂はなく内湯のみで、湯はやや熱め。ドライヤーは有料のみ(100円で5分)でした。料金は500円と、下山後にさっと汗を流すのにちょうどよい施設です。

| 温泉施設 | 利用シーン | 営業時間 | 料金(大人) | メモ |
|---|---|---|---|---|
| お宿 陣屋 | 前泊(前日に立ち寄り) | 16:00〜20:00(最終受付19:30・不定休のため要確認) | 700円 | 内湯は40度メイン+ぬるめの2槽。露天は利用不可の場合あり |
| 望岳荘 | 下山後 | 11:00〜19:30 | 500円 | コンパクトな人工温泉・内湯のみでやや熱め。ドライヤーは有料(100円/5分) |
まとめ|塩見岳・蝙蝠岳は静かな大展望を味わえるロングピストン
鳥倉登山口から塩見岳を越えて蝙蝠岳までを往復するこのルートは、百名山・塩見岳の頂と、静かな百高山・蝙蝠岳の360度の大展望を一日で楽しめる、歩きごたえのあるロングコースです。標準19時間超・累積標高3,000m超と体力は必要ですが、前泊で深夜から動けば日帰りでも歩き切れます。往路のガスが晴れていく復路の展望も含めて、南アルプスらしい奥深さと静けさを、鳥倉登山口駐車場での車中泊前泊と組み合わせて味わってみてください。
※ 本記事は筆者の登山時点での体験・情報をもとにしています。登山道・駐車場・施設・林道の状況は変わることがあります。入山前に最新情報(自治体・山小屋・YAMAP等)を必ず確認し、天候・体力に応じた無理のない計画で、自己責任のもと安全な登山をお楽しみください。
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