後立山連峰の主稜線にある五竜岳(ごりゅうだけ・標高2,814m)と鹿島槍ヶ岳(かしまやりがたけ・標高2,889m)は、どちらも日本百名山の一座です。この2座をつなぐ八峰キレットは、大キレット・不帰キレットと並ぶ日本三大キレットのひとつ。鎖と梯子が連続する、後立山連峰でもっとも険しい区間として知られています。
通常はキレット小屋や冷池山荘に泊まる1泊2日の縦走ですが、今回は下山口の柏原新道登山口に前日から自転車をデポし、エスカルプラザを深夜1時台に出発するという組み立てで日帰りに収めました。距離26.2km・のぼり3,339m・行動14時間28分。深夜スタートが前提になるので、前夜は登山口近くで車中泊しています。
この記事では、登山歴・車中泊歴10年のソロ登山者の視点で、自転車デポを絡めたこのルートの組み立て方・前泊できる車中泊スポット・八峰キレットの実際・装備・下山後の温泉まで、まるごとお伝えします。

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五竜岳・鹿島槍ヶ岳と八峰キレットの基本情報
| 標高 | 五竜岳 2,814m/鹿島槍ヶ岳 南峰2,889m・北峰2,842m |
| 所在地 | 長野県白馬村・大町市/富山県(北アルプス・後立山連峰) |
| 山のリスト | 五竜岳・鹿島槍ヶ岳ともに日本百名山 |
| 八峰キレット | 鞍部の標高約2,518m。日本三大キレットのひとつ |
| 難易度 | 上級(鎖場・梯子の連続、ザレ場・ガレ場の通過あり) |
| コースタイム目安 | 標準 約20時間20分(区間合計)/実測 14時間28分(休憩込み) |
| 距離・累積標高 | 26.2km・のぼり3,339m/くだり2,810m |
| ベストシーズン | 7月中旬〜9月下旬 |
このコースのキャラクター
遠見尾根から五竜岳までは、樹林帯と展望尾根が交互に現れる歩きやすい登り。核心は五竜岳から鹿島槍ヶ岳までの八峰キレットです。ただし、実際に歩いて怖いと感じたのは鎖や梯子そのものではなく、その前後に続くザレ場・ガレ場でした。鎖場は要所にしっかり整備されていて、岩のグリップも効きます。ペンキマーカーや×印も多く、道を見失う心配はほとんどありません。
一方で、鹿島槍ヶ岳から先の爺ヶ岳・柏原新道は一転して歩きやすい下り基調。核心部を午前中に抜けてしまえば、午後は消化試合に近いという時間配分になります。
エスカルプラザ・柏原新道登山口へのアクセスと自転車デポ
このルートは起点と終点が26km離れているのが最大の問題です。公共交通機関で結ぶのは時間的に厳しいため、今回は前日のうちに下山口である柏原新道登山口へ自転車をデポし、下山後に自転車でエスカルプラザまで戻る形にしました。


柏原新道登山口の駐車場は登山口の少し手前、仮設トイレも設置されています。

何時までに着いておくか
登山口の駐車場ではなく自転車のデポが前日のタスクになるので、明るいうちに柏原新道登山口へ寄っておく必要があります。今回は前日17時にデポを済ませ、そのあと白馬側の車中泊スポットへ移動しました。
当日の出発は深夜。エスカルプラザ発1時50分で、行動開始から日の出まで約2時間45分は完全な暗闇です。ゴンドラ(テレキャビン)の運行前に動き出すことになるため、アルプス平までのゲレンデは自分の足で登ることになります。
五竜岳・鹿島槍ヶ岳の前泊におすすめの車中泊スポット
深夜1時台に動き出す前提なので、前泊地はエスカルプラザから近く、かつ静かに眠れることが条件になります。今回実際に前泊した場所を含め、白馬エリアの候補を3つ挙げます。
【1】サンサンパーク白馬(今回前泊した場所)
今回はここで前泊しました。道の駅より静かで、無料の広い駐車場が使えます。深夜出発でも周囲に気を使いにくいのが利点です。

【2】道の駅 白馬
設備が整っていて使いやすい一方、国道148号沿いのため走行音は大きめ。耳栓が要ります。

【3】道の駅 安曇野松川
白馬からは南に離れますが、安曇野方面から入る場合の中継地として使えます。駐車場が静かで眠りやすいスポットです。

おすすめはサンサンパーク白馬。エスカルプラザまで車で10分ほどで、深夜発の準備をしても気兼ねが少なく、この縦走との相性がいちばん良いと感じました。
実際に登ったコース体験記(遠見尾根〜八峰キレット〜柏原新道)
エスカルプラザを深夜1時50分に出発し、柏原新道登山口へ16時18分に下山するまでの記録です。ゴンドラを使わずゲレンデを登り、五竜岳・八峰キレット・鹿島槍ヶ岳・爺ヶ岳をつないで、後立山連峰の主稜線を南下します。
ルート全体図

赤い線が今回歩いた軌跡です。北(右上)のエスカルプラザから遠見尾根を登り、五竜岳で主稜線に乗ってからは、八峰キレットを越えて南下し、柏原新道登山口へ下りています。
五竜岳・鹿島槍ヶ岳のコースタイム(標準・実測)
| 区間 | 標準コースタイム(累計) | 実測コースタイム(累計) |
|---|---|---|
| エスカルプラザ(出発 1時50分) | — | — |
| → 小遠見山 | 4:00(累計 4:00) | 2:24(累計 2:24) |
| → 五竜山荘(白岳経由) | 3:05(累計 7:05) | 2:30(累計 4:54) |
| → 五竜岳 | 1:05(累計 8:10) | 0:41(累計 5:35) |
| → 北尾根の頭 | 1:50(累計 10:00) | 1:19(累計 6:54) |
| → 口ノ沢のコル | 0:20(累計 10:20) | 0:28(累計 7:22) |
| → キレット小屋 | 1:20(累計 11:40) | 0:53(累計 8:15) |
| → 鹿島槍ヶ岳 南峰 | 2:20(累計 14:00) | 1:23(累計 9:38) |
| → 冷池山荘 | 1:30(累計 15:30) | 1:33(累計 11:11) |
| → 種池山荘 | 2:00(累計 17:30) | 1:27(累計 12:38) |
| → 柏原新道登山口(下山 16時18分) | 2:50(累計 20:20) | 1:50(累計 14:28) |
区間の標準コースタイムを積み上げると20時間20分。実測は休憩込みで14時間28分。標準の約7割の時間で歩いた計算になります。
※ 最初の区間は、テレキャビン運行前でゲレンデを自力で登るためエスカルプラザから小遠見山までをひとまとめにしています。この区間はテレキャビン利用が前提のため単独の標準タイムが設定されておらず、小遠見山までの通しの値を採用しています。
出発前夜〜当日朝
前日の夕方に柏原新道登山口へ自転車をデポし、そのままサンサンパーク白馬へ移動して車中泊。深夜1時30分に出発し、1時40分にエスカルプラザへ到着しました。準備を整えて、1時50分にスタートです。
ゲレンデを登ってアルプス平へ(1:50〜3:10)
テレキャビンの運行前なので、アルプス平駅までは自分の足で登ります。つづら折りの砂利道をひたすら登る区間で、展望も何もない暗闇のなか、汗だくになりながら標高差をただ稼いでいく時間帯でした。約1時間20分でアルプス平駅周辺に到着。
アルプス平駅付近から先は木道や木の階段が整備され、格段に歩きやすくなります。
遠見尾根から日の出(3:10〜5:52)
3時39分に見返り坂。傾斜が緩んで、休憩を取るのにちょうどいい場所です。4時14分に小遠見山到着。ここまでずっとヘッドライト行動です。

4時35分到着の中遠見山で、ようやく日の出。朝焼けに染まる五竜岳が正面に立ち上がります。長い暗闇のあとだけに、この瞬間の見返りは大きいものでした。


西遠見山から白岳へ ── 急登と鎖場(5:52〜6:44)
西遠見山から先は様相が変わり、急登の岩場と鎖場が出てきます。




高度が上がると眼下に雲海が広がりました。鹿島槍ヶ岳もこのあたりで姿を見せ始めます。
6時33分、唐松岳と五竜岳の分岐直前にある白岳に到着。残念ながらガスで展望はありませんでした。
五竜岳へ ── 岩場の連続(6:45〜7:44)
五竜山荘を過ぎると、五竜岳山頂直下は岩場の連続になります。


7時25分に五竜岳山頂。山頂は一部ガスが切れていて展望が利き、剱岳方面がきれいに見えました。

八峰キレットへ ── 核心は鎖ではなくザレ場(7:44〜10:09)
五竜岳と鹿島槍ヶ岳の分岐からすぐ、急なザレ場の下りが始まります。ここまではストックを使っていましたが、この先は岩場を登るのに邪魔になるため、ここでしまいました。


長い岩登りもありますが、要所には鎖が付けられていて、岩のグリップもしっかりしているので登りやすいのが実感でした。ペンキマーカーや×印も多めに付けられていて、道を見失うことはありません。


むしろ注意すべきはザレ場・ガレ場です。数が多く、足元が流れやすい。キレットというと鎖と梯子の印象が先に立ちますが、実際に神経を使ったのはこちらでした。
8時44分、北尾根の頭に到着。360度の展望が広がる休憩しやすいポイントです。


北尾根の頭から口ノ沢のコルまでは、比較的歩きやすいハイマツ帯。9時12分にコルへ到着しました。
コルからキレット小屋までは鎖場が多く、長い梯子も出現します。


10時5分、キレット小屋に到着しました。

鹿島槍ヶ岳へ ── きつい登り返し(10:09〜11:28)


キレット小屋から先は登り返しがかなりきつい区間です。行動開始から8時間以上が経ったところでこの登りが来るので、体力配分の面でもここが本当の山場でした。
11時5分に北峰、11時11分に北峰との分岐を通過。


11時28分、鹿島槍ヶ岳南峰に到着。登ってくるあいだはガスで山頂が見えていませんでしたが、山頂部は晴れていて抜群の展望でした。

爺ヶ岳から柏原新道を下る(11:56〜16:18)
南峰からは、これから向かう爺ヶ岳方面がよく見えます。ここから先は下り基調で、道も一気に穏やかになります。

冷池山荘から爺ヶ岳への登りが終盤の最もつらいところ、約250mの登り返しが疲れ切った体にこたえます。14時28分に種池山荘到着。ここから柏原新道に入ります。
柏原新道はよく整備された下山路で、小刻みに休憩を挟みながら16時18分に柏原新道登山口へ下山しました。
自転車で27.3kmを戻る
登山口からは、前日にデポしておいた自転車でエスカルプラザまで戻ります。距離27.3km・のぼり318m/くだり729mで、所要1時間41分。下り坂の場面が多く、走行自体は楽でした。

ただし国道の交通量が多く、歩道がない区間も多いので、自転車走行はやや怖いというのが正直なところです。日没が近い時間帯になるなら、ライトと反射材は必須だと感じました。
幸い、エスカルプラザに到着して5分後には激しい夕立になりました。ぎりぎりのタイミングで、山の午後の天候変化を考えると、この行程は「早く出て早く帰る」が正解だとあらためて思います。
五竜岳〜八峰キレット〜鹿島槍ヶ岳で気をつけたいポイント
実際に歩いて、事前のイメージと違った点も含めて挙げます。
- 核心は鎖ではなくザレ場・ガレ場:鎖場は要所にしっかり整備され、岩のグリップも効くので登りやすい。数が多く神経を使うのはザレ場・ガレ場のほう
- ストックのしまいどころ:五竜岳との分岐からすぐの急なザレ場の下りまでは有効。その先は岩場を登るのに邪魔になるので、北尾根の頭の手前でしまうのがちょうどよかった
- ルートは分かりやすい:ペンキマーカーや×印が多めに付けられていて、道を見失う心配は少ない
- キレット小屋からの登り返しがきつい:行動8時間を過ぎたところで最大の登りが来る。体力を残しておく
- 行動時間14時間半の覚悟:エスカルプラザ発だと深夜1時台スタートが前提。ゴンドラ運行前なのでゲレンデは自力で登ることになる
- 遠見尾根で熊の残留物らしきものを2回見かけた:北アルプスでも熊対策は必要。詳しくは装備の項に書きます
- 下山後の自転車移動:国道は交通量が多く歩道がない区間もある。ライト・反射材を用意しておきたい
実際に使った装備
一般的な装備リストではなく、私がこのルートで実際に使ったものだけを紹介します。
必須装備
ヘッドライト:このルートでは「あると安心」ではなく完全な必須装備です。エスカルプラザ発1時50分に対して日の出は4時35分ごろ。行動の最初の約2時間45分はヘッドライト頼りで、しかもゲレンデのつづら折りという目印の少ない道を登ります。予備電池も含めて備えたい装備です。
普段は使わないからこそ、価格と信頼性のどこで線を引くかを知っておくと迷いません。使い方のタイプ別に選び方をまとめた記事はこちらです。

ヘルメット:岩場やガレ場が多く、転倒時や落石対策として必須。五竜岳へ登る時間帯によっては他の登山者も多く、先行者の落石に備えるためにも、五竜岳の手前からのヘルメット着用推奨です。
自転車(デポ縦走の要):起点のエスカルプラザと終点の柏原新道登山口は約27km離れており、この2点をつなぐのが自転車です。前日のうちに下山口へデポしておき、下山後に自転車でエスカルプラザまで戻ります。復路はくだり基調で走行そのものは楽でしたが、国道は交通量が多く歩道のない区間もあるので、ライトと反射材は必須。下山が夕方にずれ込むと日没と重なるため、被視認性を確保する装備は省けません。
自転車は折りたたみ電動アシスト付のPELTECH(ペルテック) TDN-246Lです。20インチの極太タイヤが標準装備なので、少々の荒れた林道でも安心の走破性があります。
あると安心だった装備
ストック:体力温存のため遠見尾根の登りから使用。五竜岳の分岐直後にある急なザレ場の下りまでは大いに役立ちました。ただしその先の八峰キレットでは岩場を登るのに邪魔になるため、北尾根の頭の手前でしまっています。

熊鈴と熊スプレー:今回、遠見尾根で熊の残留物らしきものを2回見かけました。
ビビり性の筆者は、山に登るときは必ず熊鈴1つに熊スプレーを組み合わせて熊対策をしています。人が少なく、熊の出没が比較的多いエリアでは熊鈴を2つリュックの前後につけて、複数人で歩いているように音を散らせて行動しています。
登山口周辺の日帰り温泉
下山後に立ち寄ったのはみみずくの湯です。こじんまりとした内湯と露天風呂という構成で、洗い場は約10。洗い場の間隔はせまめです。シャワーは途中で切れない仕様なので、押し直す手間がなく、使いやすいのも良かった点です。
なお、エスカルプラザには白馬姫川温泉 竜神の湯があり、下山地点に戻ってそのまま入れる立地です。ただし営業は11:00〜17:00(最終入場16:30)と夏場は早めに終了してしまうので注意が必要です。
| 温泉施設 | 営業時間 | 休業日 | 料金(大人) |
|---|---|---|---|
| みみずくの湯 | 10:00〜21:00(受付20:30) | なし(通年営業) | 800円 |
| 白馬姫川温泉 竜神の湯(エスカルプラザ地下1階) | 11:00〜17:00(最終入場16:30) | 期間営業(2026年は6/20〜10/18) | 900円 |
※ 竜神の湯は今回は時間が合わず利用していません。営業期間・時間が限られるため、訪問前に公式サイトで最新情報をご確認ください。
まとめ|八峰キレットは自転車デポと車中泊前泊で日帰りにできる
五竜岳と鹿島槍ヶ岳をつなぐ八峰キレットは、通常は山小屋泊で歩く縦走路です。しかし下山口に自転車をデポし、前夜に車中泊して深夜1時台に出発するという組み立てなら、日帰りの射程に入ります。
- 前泊の車中泊スポット:エスカルプラザに近く静かなサンサンパーク白馬が総合おすすめ
- コース:距離26.2km・のぼり3,339m・行動14時間28分のロングルート
- 核心:鎖と梯子より、その前後のザレ場・ガレ場。キレット小屋からの登り返しがいちばんこたえる
- 装備:ヘッドライトは必須。ストックは北尾根の頭の手前まで。遠見尾根の熊対策も忘れずに
- 下山後:自転車で27.3km・1時間41分。
※ 本記事は筆者の登山時点での体験・情報をもとにしています。登山道・駐車場・施設の状況は変わることがあります。入山前に最新情報(自治体・山小屋・YAMAP等)を必ず確認し、天候・体力に応じた無理のない計画で、自己責任のもと安全な登山をお楽しみください。
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